家族信託という言葉は聞きなじみがないかもしれません。「信託」という言葉は聞いたことがあっても内容はよく分からないという方は多いと思います。昔から「〇〇信託銀行」という名称の金融機関がありましたので、「信託」自体は新しいものではありません。それが、最近になってそれを家族内で行うスキーム(プラン・実施案)が広がりつつあります。これが家族信託です。特に、高齢化社会の進展という社会情勢の変化にマッチしたスキームです。
信託とは

「信託」とは、「信じて託す」ということ。つまり、「自分の財産を、信頼できる人物に託して(≓預けて)、決められた目的に従って、自分や自分の大切な人のために管理や運用してもらうこと」です。ここで、託す信頼できる人物が家族の場合に、家族信託と呼びます。そして、自分の大切な人も家族であれば、「家族の一人が、家族の誰かに財産管理を任せ、家族の誰かのために利益ができるよう運用する」という、まさに家族同士で財産管理・運用を行うことが家族信託ということになります。
※運用を家族ではない銀行などに任せる場合は、家族信託とは言わず商事信託と呼びます。
家族信託の具体的なスキーム例
家族信託でも分かりやすい例を挙げてみます。
《登場人物》
■父・一郎さん(80歳。賃貸アパートを持っていて家賃収入などの管理をしている)
■母・花子さん(78歳。一郎さんの物忘れが多いことから認知症を心配している)
■長男・太郎さん(48歳。両親の近くに住んでいる。両親の生活や認知症を心配している)
このままだと、もし一郎さんが認知症を発症してしまうと、家賃の管理ができず、入金されたお金を引き出せなくなる可能性があり、そうなればアパートの修繕などもできず困ることになります。
そこで、また判断能力がある間に契約をするのが「家族信託」です。信託は契約ですので、意思能力がある間に契約を結ぶ必要があります。家族信託の契約では、例えば次のような契約を結びます。
《家族信託上の役割》
■委託者(信託をお願いする人):父・一郎さん
■受託者(信託で運用や管理をする人):長男・太郎さん
■受益者(家賃収入などから利益を得る人):父・一郎さん
《家族信託の流れ》
① 賃貸アパートやその管理に必要な資金を、一郎さんから太郎さんに名義等を移す。
② 太郎さんは託された(≓預かった)資金をもとにアパート管理をする。
③ 家賃収入は、必要経費を差し引いて、一郎さんの生活費等で支出する。
このような契約を結んでおけば、仮に一郎さんが認知症を発症しても、太郎さんが従来と変わらずアパート管理を続けることができるというものです。
なぜ家族信託が相続対策となるのか
先の例で、家族信託の契約の中で、「一郎死亡時に家族信託は終了する。アパートの所有権は太郎に相続させる」という契約にしておきます。そうすると、仮に一郎さんがお亡くなりになっても、アパートは太郎さんの所有となり※、継続して管理できることになるのです。あくまで単純な家族信託例ですが、要するに家族信託は生前から財産を託し、スムーズに承継(相続)させる方法でもあるのです。もちろん、そのためにも家族信託契約を結ぶ前に、考え得るいろんな事象(例えば、太郎さんが先になくなったらどうするか、花子さんの生活はどうするか)などを考慮してスキームをつくる必要があります。また、相続財産に関わる内容ですので、事前にご家族間での合意形成が重要となります。
※太郎さんは、将来自分が相続するアパートですので、管理もしっかり行うことが期待できます。
こんな方におすすめする家族信託
- 賃貸不動産や資金をもっているが、認知症などでが心配
- 子どもなどの中に障がいをお持ちなど心配なお子さま・お孫さんがいる
- 夫婦それぞれ再婚だが、それぞれに別れた配偶者との間に子どもがいる
- 子どもがいないご夫婦で、面倒を見てくれる自分の甥や姪に相続させたい
- 子どもが承継した財産のその先の承継先まで決めておきたい場合
- 夫婦共有不動産をスムーズに承継させたい
- 会社の事業承継を、生前からスムーズに移行するようにしたい など
遺言書・成年後見制度との違い
(1)遺言書との違い
遺言書は、あくまでお亡くなりになってはじめて効力を生じます。生前から継続して管理などをさせることはできません。
(2)成年後見制度との違い
成年後見制度では、ご自身の居住用住宅などの管理や身上(例えば介護施設への入所手続など)はカバーされます。ただし、賃貸不動産などの管理は対象外。さらに、仮にそのような資産がある方の場合、多くの場合成年後見人には弁護士さんなどが就任しますので、ご家族と違って融通のきいた対応が難しく、また報酬も発生します。
家族信託のデメリット ※高知県の場合
(1)判例・税法上不確定要素がある
信託自体は昔からあるものの、家族信託は比較的新しいスキームです。そのため、仮にトラブルになった場合の判例もあまりなく、また相続税なのか贈与税なのかなど税法上確定的ではない側面があります。
(2)信託口口座が高知県内で利用しにくい
受託者(託される人)に資産を移す場合、その方個人の資産とは別にすることが大切です。そのための金融機関の口座を信託口口座と呼びます。その場合、口座名義人は、例えば先の例だと「委託者兼受益者 一郎 信託受託者 太郎」という形での口座になります。しかし、高知県内で信託口口座を開設できる銀行は、現在のところ1行のみなど、家族信託のスキームを作成する際に注意すべき点が多くなります。
(3)受託者には義務や負担がかかる
託された受託者には、金銭管理の帳簿作成など一定の義務や負担がかかります。(ただし、その分報酬を与えることも可能です)
(4)税などの優遇が受けられないケースがある
信託された財産を相続させるようなケースでも、本来なら使える控除などが使えないものがあります。
